NEXT?INNOVATION
― 香川大学発研究シーズ活用レポート?
vol.14

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たとえ予想とは違う結果が出ても、それが次の研究のシーズとなることもある。
ここは産業の現場に貢献し、よりよい社会をつくる研究の最前線。
ID研の自由な研究風土が、それを後押ししています。

希少糖配合建材は応用の道も幅広い

 私の研究は、建築?土木工学分野における「新しい建築材料の開発」と「構造物の検査技術」を大きな軸としています。

 建材開発では、コンクリート建材を対象とする「廃棄物の土木分野への活用」がテーマ。コンクリートの成分は7割が石ですが、砕いた石を接着剤としてくっつけているのはセメントです。セメントは石灰石を燃やしてつくりますが、燃やすと二酸化炭素が発生するため、脱炭素社会を目指す上ではあまりよくない。そこで、セメントのかわりに石炭火力発電の副産物である「灰」などの廃棄物を使うというアイデアが生まれました。

 石炭火力発電で生じた灰は重金属を含み、適切に処分しないと公害リスクがありますが、コンクリートに入れてしまえば重金属は流出せず、しかもコンクリートの精度を高めてくれるんです。電力会社は廃棄物を建材として活用でき、コンクリート学者は二酸化炭素を出さずコンクリートの性能を高める材料が手に入る。積極的に再生利用していこうと産官学で検討し、県内で既に実装も広がりつつあります。

希少糖模型(w600.jpg希少糖の分子構造模型

 さらに香川大のイノベーションデザイン研究所(ID研)では、コンクリートに二酸化炭素を固定させるアミノ酸や、香川大が誇る希少糖研究にも着目。希少糖を使った食品は広く流通していますが、賞味期限が切れたものは売り物にできず廃棄されます。それならコンクリートに混ぜてみてはどうか、という発想です。希少糖の作用で土壌に含まれる発ガン性物質を改善する研究、生セメントの固まる速度を希少糖で制御する研究、希少糖を含むコンクリートを海で活用する研究なども進んでいます。

 もう一つの軸である「検査技術」は、「構造物の安全?安心をどうチェックするか」がテーマです。熱情報を可視化するサーモグラフィという技術がありますね。同じように、熱以外を可視化するID研石丸教授発の赤外分光技術を応用し、コンクリート構造物の表面にどのくらい塩がついているかを可視化するんです。コンクリート構造物を支える鉄骨は塩に弱いけど、パッと見ではどこが弱っているかわかりませんから、大きなドリルを使って大規模な検査をしているのが現状です。でも塩がたくさんついている箇所がわかれば、どこを調べるべきかが絞れて、コンパクトな装置で検査できる。こうした検査精度を向上させる技術を国交省の支援の下で進めていて、うまくいけば実装される見込みです。

 また、創造工学部造形?メディアデザインコースの先生方と一緒に、「力学的に強い橋はデザイン性も高い」という仮説の下、より安全な橋の造形の研究も進めています。数学的?物理的に安全とされる「黄金比」は、デザイン的にも優れていることが多い。感性と数学を融合させる取り組みと言えるでしょう。

圧倒的にイノベーティブな風土を生かして
「これまでにないもの」を次々と生み出せる場がある

 ID研と希少糖研究。香川大が誇る先端研究のさまざまなコラボレーションは、分野の垣根が低い香川大の環境をフルに生かした例です。学生と企業が一緒にチームとして取り組む共同研究や、企業人の大学院進学を歓迎する風土もあるし、互いに刺激し合い専門性を追求しつつ、ビジネスレベルでの実装を視野に入れた学びが深められる場だと思う。ID研を核として、これまでにないイノベーティブな研究を強力に推進できる環境があることを、学生たちに広く知ってほしいですね。

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AIを活用した橋の検査技術開発でニッチな強みを発揮
 土木工学分野で私が先端的だと自負しているのは、「橋のカルテ」です。橋は5年に一度の点検が義務付けられていて、全国約70万の橋をすべてチェックするのは時間的にも人員的にも難しいジレンマがある。そこでAIの出番です。

 これまで人の手で行っていた検査工程を自動化するシステムがトレンドですが、私が取り組んでいるのは「カルテの分析」。人間の病気を診断するように、膨大な橋のデータから類似例を参考に将来的な「橋の健康度」の推移を自動予測するシステムです。8万ページを超える紙データを一つ一つ入力する地道な作業から始まり、橋の専門知識や土木の常識も学ばせました。既に四国内の橋のモデルは完成していますから、今後は全国に展開していきたい。地味ですけど、同じことをやっている人がいないニッチな強みを発揮しています。

 実感として、AIは70?80点の仕事をしてくれます。しかし人の命を預かる工学の分野では、常に90点以上が求められます。「万が一」を守るのは、AIが正しいかどうか判断できる技術者の力。これを肝に銘じつつ、AIがつくってくれる「学びやすい環境」をうまく活用して高速で基礎を身につけ、応用にしっかり時間と手間をかけるのが、AIとの上手な付き合い方ではないでしょうか。

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プロフィール(w200.jpg

香川大学イノベーションデザイン研究所
香川大学創造工学部 准教授
岡﨑 慎一郎(おかざき しんいちろう)
香川県高松市出身。香川県立高松高等学校卒業、京都大学工学部卒業、東京大学工学系研究科社会基盤学専攻博士後期課程修了。博士(工学)愛媛大学講師、(独)港湾空港技術研究所研究官を経て、2015年4月より現職。専門はコンクリート工学。

詳しい情報は、HPから確認できます
香川大学 産学連携?知的財産センター
/faculty/centers/23894/